「仕方ない」

 この言葉は便利だ。たった一言ですべてを終わらせることができる。何度この言葉に救われただろう。他人の自分勝手さに嫌気が差した時、どうしようもなく辛い時、この言葉を繰り返すだけで私の心はスーッと落ち着き、本当に「仕方ない」気がしてくるのだ。しかし最近気が付いたのだが、どうやら落ち着いていたわけではないらしい。自分の汚い感情を見たくないばかりに「仕方ない」という言葉で壁を作り、溢れ出る醜い感情を無理矢理心の奥底へと追いやっていただけらしい。

 仕方ない仕方ない仕方ない、人には人の人生があるのだから仕方ない、これは私が成長するための試練なのだから仕方ない、そう自分に言い聞かせ、醜い感情に蓋をしているうちに私の精神はさらにドス黒くなり、ついに死んだ。

 でも、それならどうしろというのだ。「仕方ない」と心を鎮める他に方法は無かった。他人を悪く言うのも、自分の醜い感情と向き合うのも嫌だった。もう、「仕方ない」と諦めるしか無かったのだ。確かに感情が溢れて誰彼構わず八つ当たりをしてしまいそうになるのは悪い癖だ。じゃあ日頃からこの鬱憤を晴らしていればよかったのか?そんな真似はしたくない。「仕方ない」なんて言っているから都合のいいように思われるなんてわかっているけれど、それ以外の最善策が見つからないのだ。私はいつまでもこうやって生きていくのだろうか。