彼とは、運命だった。何度も別れ、何度でも恋に落ちた。少し長めの前髪から覗く奥二重の瞳や、薄くてやわらかい唇、見た目からは想像が出来ない高い声、わたしよりも少し大きい手足、どこを触ってもすべて筋肉なのかと思うほどに硬い身体、そして高い体温。彼を見つめるたびに、彼に見つめられるたびに、彼に触れるたびに、彼に触れられるたびに、彼とわたしは、根本的に、まったく違う人間なのだということを認識し、それと同時に、彼とほんとうの意味でひとつになることはきっと一生出来ないと感じる。彼が男でわたしが女だということはもうどうでもよくて、というよりもそれ以前に、顔を見た時から、ふたりきりになって彼が発するあまったるい雰囲気に触れた時から、ああ、わかりあえない。そう思ってしまったのだった。どれだけ傍にいても、溶けてひとつになってしまうのではないかと思うほどに抱きしめられていても、うれしさというよりは、ずっと悲しい気持ちのままだったような気がするし、初めて出会ったときから今に至るまで、もしかするとたったの一度もうれしいと感じたことはないのかもしれない。胸が締め付けられるような、自分にとってたいせつだったなにかを失って心にぽっかりと穴が開いたような、時にはこの胸が張り裂けてしまいそうなかなしみに支配されながら、彼の愛情を享受し、いつの日か必ずやってくるであろう別れの日を少しだけ待ち遠しく感じつつも、彼の笑顔を横目にわたしは今まで生きてきたのだ。